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SWING JOURNAL


Swing Journal 2003.1 〔What’s Up Now ! 〕
“ひょっこりひょうたん島が前田憲男先生のアレンジでとても素敵になったの”
 
ラ・ボーン歌に惹かれるという前川陽子はNHKの「ひょっこりひょうたん島」の主題歌を歌ったことで知られている歌手である。「なにも知らないでいきなり譜面を渡され、歌ったら一発オーケーになって、あとはあれよあれよという感じでした。」

 12歳だった。「そうやって放送の世界に引き込まれ、気がついたらCMの歌手の第一人者になっていました。毎日毎日コマーシャルソングを歌ってました」

 実はCM音楽の世界はジャズと近い。名のあるアレンジャーやミュージシャンが、CMの録音スタジオに普通に出入りしている。CMといえば、昨今は古今のジャズの名曲名演が音楽に使われているのを日常耳にする。だが、こういう既成の曲の使用が盛んになる前は、それらしい音楽をジャズ畑のアレンジャーに依頼することが多かった。原版だと使用料が高価過ぎて、というのもある。

 それはとにかく、1000曲以上というCM音楽を歌った前川陽子が、今回前田憲男アレンジによるアルバムを発表した。「ひょっこりひょうたん島アナザーワールド」がそれである。

「 ジャズ歌手ではありませんが、先輩の歌手として好きなのは江利チエミさんです。私は職業柄音域が広いのですが、基本的にはアルトです。江利さんもアルトで、とても素晴らしい声をしています。ジャズの曲も歌われてますが、民謡とか「さのさ」を歌っているのが好きですね。ジャズ的にアレンジされた「相馬盆歌」なんてそのまま歌いたいくらい。」

そのへんのジャズ歌手志望と違って、確とした自分のキャリアもある彼女が言うと、重みがある。歌の巧みさや味という点では、いわゆるジャズボーカルも江利チエミも。拠って立つところは同じなのだ。
そこで今回のアルバム。「ニューヨークでむこうのミュージシャンと一緒に録音しました。前田憲男先生のアレンジがとても素敵なの。」

宇野誠一郎の曲に井上ひさしと山元護久が詞を付けたボサノバタッチの1曲<夜を待とうよ>からまさしく前川陽子ワールド。抜群の歌唱力と独特の情感。そして何より素晴らしい美声で迫る。もっともっと聴いていたくなる。

2曲目は前田憲男アレンジによる<ひょっこりひょうたん島>がジャジーで贅沢なサウンドで迫るり、ラストには前田のピアノとデュオもあって、これがまたいいのだ。次がおおいに楽しみである。 馬場啓一

Swing Journal 2003.1 〔Live&Concert〕
“アニメソングを歌い続けた彼女の歌の巧みさを改めて思い知った”

10月28日 渋谷 JZ-Brat

NY録音による新作「ひょっこりひょうたん島アナザーワールド」の発表記念ライブ。前川陽子という名前はあまり馴染みがないと思うが、その声は多分ほとんどの世代の人が耳にしているはずだ。「ひょっこりひょうたん島」を始め、数多くのアニメソングCMソングを歌ってきたシンガーである。一世を風靡したそれらの歌が今も人々の心に深く残っているのは、彼女の爽やかで力強く、少し憂いを帯びたパンチのある声にもよる。僕などまさにそのまま彼女の歌を聴いて来た世代で、それらのヒット曲を歌った人が目の前
でいまの歌をうたっている(ジャズアレンジがすばらしい)のを聴きながら、ノスタルジックな想いとこれから進んでいく未来とが重なって、何とも不思議な感慨にふけっていた。

曲目はバラードやボサノバ等のスタンダード曲とジャズアレンジのひょっこりひょうたん島曲集。ドラムスのシンプルなリズムによるアレンジが出色のテーマ<ひょっこりひょうたん島>(12歳でのデビュー曲)は今に生きるジャズそのもの。細部にまで丁寧に歌いこむ情感と、繊細で艶やかなボーカルが相俟って、かなり豪華な空間だ。他の数曲も子ども向けの人形劇の挿入かであるのに、しっとりと聴かせる名曲ばかりだと改めて思わされた。<シェルブールの雨傘>や<いそしぎ>といった名画の主題歌ももちろんジャズアレンジだが、まるでそのまま、一遍の映画を見ているような贅沢な気分に浸れた。途中、カラオケを使って<キューティーハニー〜魔女っ子メグちゃん>を振りつけつきでサービス。テーマが浮かび上がるだけで、それらの昔の名場面が思い出されて仕方ないのだが、彼女の歌を知らない若い世代であってもきっと引き込まれると思う。ほんの数秒のCMや、アニメソングで人々の耳に強く残る歌を数百曲も歌い続け、その声が放送界に途絶えた事がないほどの歌手である・彼女の歌の巧みさを改めて思い知らされた。サポートするメンバーも今をときめく第一線のミュージシャンばかりだが、歌伴ではなくインストで一部と二部で各1曲、メンバー全員のソロをアグレッシブに披露して会場を唸らせた。アンコールはピアノとのデュエットで<一人じゃない>。ひょうたん島に取り残されたサンデー先生と島の子が歌うかわいらしい歌詞の名曲である。子どものころには何とも思わなかった曲がこんなにも素晴らしい曲だとわかってちょっと得をした気分になるのである。       常見登志夫




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