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| サイゾー 2002.11 P.38 |
" 私の声って、お尻を蹴飛ばされるような声なのかもしれない。"
ひょっこり帰ってきたキューティーシンガー前川陽子
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昭和歌謡がブームだ。さもあらんと思う。日本の大衆音楽がJーPOPと呼ばれるようになって久しいが、その中で生まれてくる音楽は、金になると目されるや、瞬く間に受け手の期待とは関係なく供給側によって研究しつくされ、プロデュースという名の改悪が加えられて、結果として洗練はされたが確実に新鮮さを失った音楽が再生産されていく。300万枚以上売れているという宇多田ヒカルのニューアルバムは本当に私たちが聴きたかった宇多田ヒカルだろうか?ゴージャズなPVやお洒落なジャケット写真は必要?いや、普通の大学生活のなかでつくられる彼女の素朴な歌こそ聴きたいと思う人は少なくないはずだ。

つまり昭和歌謡が人を惹きつけるのは、そこに洗練やマーケティングとは無縁な、純粋な音楽の楽しさが詰め込まれているからに他ならない。なかでもアニメソングは、豊富な音楽素養を自在に駆使することのできるプロの音楽家だちが、子供むけだからこそなんの制約もなく自由に想像力を羽ばたかせ、希有な音楽を創出しえたジャンルだ。ありとあらゆるテイストをギュッと凝縮した、これぞホントのミクスチャーなのである。
前川陽子。昭和30年代から40年代にかけて、おそらく日本人で彼女の歌声を耳にしたことのない者はいないだろう。なにしろデビューが、昭和歌謡の大名曲の一つとして数えられ、今なお歌い継がれるあのNHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」の主題歌。しかも当時、弱冠12歳。日本を代表するコンポーサー宇野誠一郎氏の手によるビッグバンドジャズ風の楽曲の良さもさることながら、それを中学生とは思えぬ表現力で唄いきった彼女の歌声が、ロングセラーの大きな要因であることは間違いない。
♪波をちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷかき分けてぇー
語尾をはね上げる独特の歌唱法は、誰に教えられるでもなく自然に身につけたものだとか。これには、こんなエピソードがある。当初、NHKの上層部は、前川さんの歌唱法に対して「こんな下品な歌い方はだめだ」と猛反対(当時のテレビ主題歌といえば、いかにも子どもらいい合唱団風の歌い方が主流だったから無理もないが)。そこで番組ディレクターは、語尾をあね上げる歌い方と抑揚のない無難な歌い方の2バージョンを録り、放送スタート時は無難な方を流し、人気が爆発し出したとたん、前者とすり替えてしまったというのだ(当時のNHKにはずいぶんとイキな局員がいたものだ)。その成功の後、合唱団風の主題歌は急速に廃れていくことになる。
中学、高校地代を通しては、「リボンの騎士」や「魔法使いサリー(エンディング)」などを唄い、大学時代には「キューティーハニー」「魔女っ子メグちゃん」のお色気たっぷりの主題化で、またもやセンセーショナルなヒットを送り出す(でも決していやらしくならず、むしろ清潔さを感じさせる声の張りが、彼女の魅力だ)。変幻自在のボーカルワークはCMの世界でも引っ張りだこに。♪やめられないとまらない〜の初代かっぱえびせんのCMソングほか、唄った曲は数百曲とも千曲とも言われている。今、あらためて彼女のプロフィールをひもとくと、「ああ、あの曲もこの曲も前川さんだったのか」と感慨深いころこのうえない。
そんな彼女が、この秋、デビュー40年目にして初の作品集(1stアルバム)「CUTE JAZZ」をひっさげ、音楽界にひょっこり(!)と帰ってきた。その発表記念として9月7日に行われた「前川陽子ひょっこりコンサート2002」。事前に噂を聞きつけた筆者は、「キューティーハニー」を生で聴いてみたいと会場へ。ところが、現れた生ハニー(前川さん)は、筆者の理性など一撃でふっ飛ばしてしまった。ジャズバンドをバックに正面からせまる圧倒的な音圧と、当時とまったく変わらぬ、いやそれ以上の声の色艶。50歳を超えた女性のウィンクが、こんなにもカワイイなんて!?
「私の声ってね、世の中が不景気になると求められるんですよ。なんでかしら。お尻を蹴飛ばすような声なのかもしれない(笑)」
今後、前川さんは、アニメなどの代表曲だけでなく、もともとご本人の音楽の原点でありジャズをはじめ、「シンガー前川陽子」として、ジャンルではくくりきれない歌を歌っていきたいという。ハニーやメグちゃんを聴いて育ってきた世代が、今の時代・年齢だからこそ求めるもの。のすたるじーではない、そんな歌が今、切実にほしい。
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